レポート

【基礎知識】CBDCと国際送金プロジェクト

中央銀行デジタル通貨(CBDC: Central Bank Digital Currency)っていろんな国の通貨があるし、プロジェクトが乱立していてややこしいですよね。

気軽な気持ちでCBDC Trackerを開いてみると、「Digital currency」の種類がいっぱいありすぎてもうわけがわからない・・! どうしておなじ国に2種類のCBDCが・・!

さらに、各国のCBDCのほかに、マルチCBDCと呼ばれるプロジェクトが存在しているようです。マルチな・・CBDC・・?(朗読)

今日はそんな、CBDCの種類がざっくりわかる基礎知識をまとめます。

CBDCトラッカーの説明とリンクは、下の記事を参照してね。

CBDCにはリテール型とホールセール型の2つある

CBDCは中央銀行の発行する法定通貨のことをいいます。

CBDCはおおきく2つに分類でき、ひとつは一般利用向けのリテール(Retail: 小売)型、もうひとつは金融機関同士の決済に用いられるホールセール(Wholesale: 卸売)型です。

もうすこし踏み込んだ言い方をすると、リテール型は個人や企業が金融サービス機関から離れて保有・交換ができるCBDC、ホールセール型は中央銀行と中央銀行に口座を持つ金融機関との間の資金移動にのみ用いることができるCBDCです。

リテール型が、国内で安価かつ迅速な個人間送金や店舗間決済の実現を目的とする一方、ホールセール型は、民間金融機関が中央銀行に保有する預け金(準備金)のデジタル化を目的としています。

複数のCBDCプロジェクトがひとつの国で開発されている理由は、リテール型とホールセール型の研究が同時進行で行われているためです。これらは用途が異なり、将来的に共存する可能性が高いと言われています。日本でも、リテールCBDCのデジタル円と、ホールセールCBDCの研究開発プロジェクトStellaが進められています。

KPMGの推察によると、ホールセール型の開発がリテール型よりも進んでいるのは、リテールCBDCの発行による民間銀行の存続危機を回避するための対策が難しいからです。

これまで中央銀行と取引できたのは認められた金融機関だけでしたが、現在設計されているリテールCBDCを発行すると、銀行以外の主体と中央銀行が直接お金のやりとりをすることになります。そうなると、商業銀行の存在意義が薄れるわけです。

この問題に対し2022年7月14日、フランス銀行のフランソワ・ビルロワドガロー総裁は「デジタルユーロ(リテールCBDC)は商業銀行貨幣の消滅を意味してはならない」と述べており、中央銀行と商業銀行の関係はこれまで通り維持されるべきで、個人口座の管理は中央銀行が行うべきではないと述べています。

mCBDC:複数のCBDCを相互運用する仕組み

世界中で高まるmCBDCの重要性

CBDCに2種類あることはわかった。じゃあmCBDCは?

mCBDCの例を挙げます。BIS(国際決済銀行)イノベーションハブ香港センターの先導している「mCBDCブリッジ」というプロジェクトは、複数の中央銀行(香港金融管理局、中国人民銀行、タイ銀行、アラブ首長国連邦中央銀行)が別々に発行したホールセール型CBDCを交換するための仕組みです。

ホールセール型のCBDCは国内の取引のほかにも、クロスボーダー取引(国境を越えて実施される取引)の役割があります。そうした、複数国のCBDCを相互運用する構想が、BISの言うところのmCBDCです。

マルチCBDC(mCBDC: Multiple Central Bank Digital Currency)はBISの造語だよ。名前で誤解しちゃいそうだけれど、複数国で共有するデジタル通貨じゃないよ〜。

ここで、Atlantic CouncilのCBDCトラッカーで各国CBDCの進捗をチェックしてみます。

2021年4月と2022年5月とを比較すると、参入国数が74から109に増えています。Bitt Inc.のDCashがバハマ諸島7か国で用いられているためローンチ割合が若干高めですが、全体的に進展している様子が伺えます。

「世界の中央銀行の半数以上が現在、デジタル通貨を開発しているか、具体的な実験を行っています」とBISは2022年5月初旬に報告しました。シンガポール、デンマーク、フィンランドなどのリテールCBDCは開発が中断されたものの、それらの国においても、ホールセールCBDCの需要は依然としてあり続けています。

このように世界規模でCBDC開発が進むなか、mCBDCの重要性は高まりつつあります。

mCBDCの3つのモデル

2019年に創設されたBIS Innovation Hubの提唱するmCBDCモデル設計は、次の3段階に分けられています。

  • モデル1「互換性の強化(Enhanced compatibility)」
  • モデル2「相互接続(Interlinking)」
  • モデル3「単一システムの構築(Integration into a single system)」

BISのレポートに掲載された、各概念図を見てみましょう。

モデル1「互換性の強化」。技術・制度面での互換性を持たせられるかが重要視されます。異なるCBDCシステムを民間の通信・クリアリングサービスが繋ぎ、標準化を図る手法です。

モデル2「相互接続」。共通のインターフェース、または決済システムを通じて1対1の取引を行う手法です。

モデル3「単一システムの構築」。複数のCBDCを交換できる共通のシステムを構築する手法です。

各国のCBDC開発を先導するグループや、BIS(国際決済銀行)、IMF(国際通貨基金)などの国際機関は、日々こうしたCBDCに関するノウハウを構築・提供し、技術進歩の基礎を築いています。

世界の国際送金プロジェクト

次に、mCBDCに関連するプロジェクトをざっと見渡してみます。

これらは、国家間の協調によるクロスボーダー取引に関するプロジェクトで、すべての実験において分散化台帳(DLT)技術の1種であるブロックチェーンが用いられています

プロジェクト名関連銀行モデル参加機関プラットフォーム
mCBDC Bridge (略称: mBridge)
*旧Inthanon-Lionrock
BISイノベーションハブ、タイ銀行、香港金融管理局、中国人民銀行、アラブ首長国連邦中央銀行3各国より商業銀行等、計22機関Hyperledger Besu
Inthanon-Lionrockタイ銀行、香港金融管理局
*タイ: Inthanon、香港: Lionrock
3商業銀行がタイより8行、香港より2行フェーズ1: Corda、フェーズ2: Hyperledger Besu
(元々はInthanon: Corda、Lionrock: Ethereum)
DunbarBISイノベーションハブ、シンガポール金融管理局、オーストラリア準備銀行、マレーシア国立銀行、南アフリカ準備銀行3R3、PartiorCorda、Quorum
Jura
*旧Helvetia
BISイノベーションハブ、スイス国民銀行、フランス銀行2Accenture、Credit Suisse、Natixis、R3、SIX Digital Exchange、UBSCorda
HelvetiaBISイノベーションハブ、スイス国民銀行3商業銀行がスイスより5行、米より2行Corda
Jasper-Ubinカナダ銀行、シンガポール金融管理局
*カナダ: Jasper、シンガポール: Ubin
2JP Morgan、Accentureシンガポール: Quorum、カナダ: Corda
Aberサウジアラビア通貨庁、アラブ首長国連邦中央銀行3商業銀行がサウジアラビアより3行、UAEより3行Hyperledger Fabric
Stella日本銀行、欧州中央銀行2Hyperledger Fabric、Corda、Quorum、Elements
フランス銀行、シンガポール金融管理局3Onyx(JP Morganのデジタル通貨・ブロックチェーン技術部門)Quorum

各プロジェクトの詳細はここでは割愛します。

上表のうち現在進行しているプロジェクトは、BISイノベーションハブの先導する「mCBDC Bridge」と「Dunbar」のふたつです。そのほかのプロジェクトは実証実験が完了しています。

表に記載のないプロジェクトには、BISイノベーションハブ、シンガポール金融管理局、インド国立決済公社が共同で発表した「Nexus」という青写真(将来の計画)があります。

また、民間のプロジェクトとして、シンガポール開発銀行(DBS)、JP Morgan、Temasekの合同企業で、ブロックチェーンベースの銀行間決済ネットワークPartior、シンガポール証券取引所(SGX)とTemasekの合弁事業Marketnodeなどが挙げられます。シンガポール金融管理局が2022年6月に立ち上げた「Project Guardian」の最初のパイロットでは、Marketnode、シンガポール開発銀行、JP Morganの主導により、ホールセール資金調達市場におけるDeFiアプリケーションの可能性を探ることに焦点が置かれています。

リテールCBDC開発に携わっている民間企業をまとめましたので、こちらもご参考にどうぞ。

実証実験等が現在行われているテクノロジープロバイダの例:R3、IBM/Linux Foundation、JP Morgan、ConsenSys、Soramitsu、Ripple、Stellar、Bitt Inc、G+D(Giesecke & Devrient)、eCurrency Mint、Ground X(Kakao)、Universa、Roberto Giori Company、ProsperUs、NZIA、IZNES、Feitian Technologies

ちなみに、ブロックチェーン技術を用いたCBDCの定義は下図が参考になります。

  • CB reserves and settlement accounts: 中央銀行の積立金と決済口座
  • CB accounts (general purpose): 中央銀行口座(一般向け) *CBDC
  • CB digital tokens (wholesale only): 中央銀行デジタルトークン(卸売専用) *CBDC
  • CB digital tokens (general purpose): 中央銀行デジタルトークン(一般向け) *CBDC
  • Private digital tokens (wholesale only): プライベートデジタルトークン(卸売専用)
  • Private digital tokens (general purpose): プライベートデジタルトークン(一般向け)
  • Bank deposits: 銀行預金
  • Cash: 現金

このマネーフラワーは、「幅広くアクセスできる」「デジタルである」「中央銀行が発行している」「トークンベースである」の4条件を組み合わせて、お金を分類しています。日頃私たちの使っている現金もトークンベースとされているところが、お金とはいったい何なのか、なんだか考えさせられますよね。

以上、CBDCの分類と国際決済プロジェクトのかんたんな説明でした。ほいじゃね〜。

最重要キーワードは『Overledger』!

参考文献

“Central bank digital currencies” (2018) / CPMI

“Central bank digital currencies for cross-border payments” (2021) / BIS

“Inthanon-LionRock to mBridge” (2021) / BIS

BIS Bulletin No.49 “Interoperability between payment systems across borders” (2021) / BIS

Project Aber Final Report (2020) / Saudi Central Bank and Central Bank of the U.A.E.

Project Helvetia Settling tokenised assets in central bank money (2020) / BIS, SIX

Project Helvetia Phase II Settling tokenised assets in wholesale CBDC (2022) / BIS, SIX

中央銀行デジタル通貨とは何ですか? / 日本銀行

“中央銀行デジタル通貨(CBDC) デジタル通貨の躍進とマネーの未来” / KPMG

“CBDCによるクロスボーダー決済改善に向けた国際的な取り組みについて” / 国際通貨研究所

*その他、各社ニュースサイト

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