レポート

【基礎知識】国際規格ISO20022の起こす金融革命

おはようございます。フェネックです。

このブログでは、ISO20022規格と関係の深い仮想通貨への投資をおすすめしています。そこで今日は、その事前知識となるISO20022についてお話ししたいと思います。

ISO20022は、金融サービス情報の伝送に用いる、電文フォーマットのルールや手続きを規程した国際標準。簡単にいうと、「お金のやり取りをするときには、こういう情報を、こうやって送受信してね」というルールです。この規格に準拠したメッセージ送信を、ISO20022規格準拠のメッセージング、と呼んだります。ISO20022は国際標準化機構(ISO)の金融サービス分野の専門委員会(TC 68)が、策定・管理をしています。

仮想通貨には、このルールに直接または間接的に順守する銘柄があります。

ISO20022関連の仮想通貨に投資されている方は多いと思いますし、わたしもその一人ですが、規格について体系的にまとめられた資料を探すのってなかなか大変です。

この記事ではIS020022規格の説明と、デジタル社会実現に向けてISO20022の果たす役割を、電子決済サービスの過去の歴史を振り返りながらお伝えします。

ISO 20022規格に関係する仮想通貨銘柄は、下の記事を参考にしてね。

ISO20022の誕生

ISO20022規格は2004年、ISO/TC 68で提唱されたことをきっかけに誕生しました。

国際標準化機構(ISO)はスイス・ジュネーヴに本部を置く、スイス民法における非営利法人。「ISO Directives」という指針をもとに、標準化活動を行っている団体です。

ISOには産業分野別に現在300程度の専門委員会(Technical Committee:TC)等があり、68番目のTC 68が金融サービスの標準化を担当する専門委員会です。

このTechnical Committee 68 Financial Services、通称TC 68によって、銀行と証券の垣根を超えて、金融サービス全般で利用される通信メッセージに関する新しい国際標準規格として作成されたのが、ISO20022です。

本格運用は2021年8月の今もまだ始まっていなくて、みんなばらばらのルールで頑張っているところだよ。
大きな組織だから、いまの仕組みに悪影響がないかを調べるのが難いこともあって、普及が遅れているよ。

ISO20022の基本情報

目的

ISO20022で達成されること

ISO20022規格に準拠することで情報の質が向上し、透明性のあるグローバルな金融取引を自動化し、且つ高速に処理することができます。

結果、不正が防止され、コンプライアンス、データ分析精度、システムの保守性が向上します。

また、ISO20022が普及すれば今以上にキャッシュレス化が促進されるでしょう。

ほかにも、規格に準拠すれば便利で安全な取引を保証できるので、海外投資家の市場参入を促し、ISO20022導入国の市場競争力が強化されると予想されます。

ではなぜ、ISO20022規格に準拠することによって情報の質が上がるのでしょうか?

その理由は、ISO20022という共通言語でモデル化して準拠を義務付けることで、取引情報の不足を回避できるからです。そして、メッセージのやり取りが自動化しやすくなり、相互運用が容易になります。また、誰がいつ発信したメッセージなのかが明確になれば、マネーロンダリングなどの犯罪行為も発生しにくくなります。

沖縄銀行から海外送金したときの着金連絡を、SWIFT gpiで自動化する仕組みを2020年末に日本ユニシスが導入したのは、ISO20022に先駆けた取組みといえます。沖縄銀行は海に囲まれた地域の特性上、以前から送金の分野に力を入れていました。gpi(グローバル・ペイメント・イノベーション)は送金を中継する金融機関での処理状況や、受取銀行内での着金状況を可視化できる規範です。

STPに基づくISO20022の思想

ISO20022という考え方への理解は、STP(Straight-through Processing)を知ると深まります。

STPは「証券STP」とも呼ばれますが、これはその名のとおり、不要なプロセスをスルーして直通にする仕組みです。

具体的には、電子取引を自動化して人手を介さず証券取引をおこなう処理を指します。

ISO20022はこのSTPの流れを汲む規格であり、将来的に銀行・証券の通信メッセージの大部分はISO20022に収束する流れにあります。

図1. 通信メッセージ標準の歴史

通信メッセージの最古のフォーマットは「手紙」、その次が「FAX」、それから先がこの図だよ。

特徴

ISO20022の全体像

ISO20022の最大の強みは相互運用性(インターオペラビリティ)です。それは、次世代のデジタル社会として内閣府の提唱する「Society 5.0」の促進にも繋がるものです。

図2. Society 5.0

2016年1月の第5期科学技術基本計画で政府の掲げた「Society 5.0」は、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」を目指しています。

簡単にいうと、情報を活用してイノベーションを促進しながら、経済発展と社会的課題の解決に取り組みましょう、という国の方針です。

ISO20022の標準化されたメッセージング、あるいはビジネスモデルは、各種分野のシステムを包括し、連携させるのに適した柔軟な構造をしています。

お金の情報を交換する、というシンプルな概念こそがISO20022の強さです。

なお、Society 5.0の類似の取り組みとしては、ドイツ政府の旗振りで行われる「Industry 4.0」のサイバーフィジカルシステム(CPS)が挙げられます。

米州開発銀行グループのIDBラボのLACChainにも、すこし似ているかもしれません。

LACChainは、ラテンアメリカ・カリブ海地域のブロックチェーンエコシステム発展のための世界同盟で、同地域のイノベーション促進・生活改善などに取り組んでいます。

これらはいずれも、プラットフォーム間の相互運用性が鍵になるプロジェクトです。

LACChain参加者は、ISO/TC307(ブロックチェーン・分散型台帳技術)の策定した規範に準拠しています。同委員会はQuant Network Ltd.のCEO、Gilbert Verdianさんによって2016年に創設されました。

ISO20022の3つの特徴

ISO20022には次のような特徴があります。

  1. 汎用性・拡張性・柔軟性の高いフォーマット
  2. 階層化された標準体系
  3. ウェブサイトで公開されたデータベース

ひとつずつ順に説明していきます。

汎用性・拡張性・柔軟性の高いフォーマット

ISO20022のメッセージフォーマットには、XML(Extensible Markup Language)が採用されています。

SWIFT MT 103をはじめとする従来型のフォーマットでは、新しいフォーマット(ISO 20022 Customer Credit Transfer)でのコーディングと違って、タグのような「テキストデータ」で項目を表現するのではなく、位置を表す「バイナリデータ」によって項目を表現していました。

そのため、ぱっと見では人が意味を判別できない数字の羅列がびっしりでした。

それがXMLに変わり、人が理解しやすくなって、異なるシステム間の接続・連携とデータの利活用が簡単になりました。XMLはデータ項目や条件などをタグを使って自由にきめられる柔軟性があり、システム依存度が低く、データ共有・再利用がかんたんなので、従来型のフォーマットよりも優れるとされています。

また、XMLのほかにASN.1(Abstract Syntax Notation One)にも対応しています。JSON(JavaScript Object Notation)の採用も現在検討されていて、ニーズや環境に柔軟に対応できます。

・ISO20022標準はXML1.0、且つUTF-8にのみ対応しています。文字転送効率が悪いとの見解からUTF-16(マルチバイト文字)は非対応です。

・アルファベット以外の非欧米言語対応のため、使用文字の追加が検討されています。

階層化された標準体系

ISO20022で標準化対象とされているのは、電文フォーマットだけではありません。

ビジネスモデルと、メッセージデータ項目の種類・定義・条件なども含まれます。

ですので、規格に準拠するのはメッセージを送受信する人に限らず、例えば、実務家はビジネスモデルに、設計者はメッセージモデルに、開発者はフォーマットにそれぞれ準拠することになります。

ウェブサイトで公開された標準データベース

標準化された規格は「レポジトリ」と呼ばれるデータベースに格納されます。

レポジトリは、ウェブサイトで最新の内容を誰でも閲覧できます。

PDF化した書類のような改訂の手間がない、便利な辞書として機能します。

もしかするとWikipediaっぽく感じられるかもしれないけれど、Wikipediaと違って、レポジトリに追記できるのはISO20022の登録認定機関(RA)だけ。
つまりSWIFTだけだよ〜。

Technical Committee 68

役割

TC 68(Technical Committee 68 Financial Services)は、金融サービス業界のグローバルスタンダードを作成する委員会です。

ビジネスニーズ・イノベーション・規制要件のための標準のサポートや、既存の国際規格の採用促進、ISO以外の標準・アプローチとの共存を図ることがTC 68の役目です。

TC 68の主な国際標準化対象は以下のとおりです。

  • 勘定系システム
  • 資産管理を含む資本市場
  • 決済
  • クレジットカード処理
  • 金融サービス固有の情報セキュリティ

組織構成

TC 68の組織構成

図3. ISO Technical Committee 68の組織図

TC 68は、分科委員会、諮問(しもん)グループ、ワーキンググループの3つで構成されています。

さらに、分科委員会はSC 2(金融サービスのセキュリティ)、SC 8(金融サービスの参照データ)、SC 9(金融サービスの情報交換)の3部門に分けられます。

各分科委員会にはワーキンググループ(Working Group: WG)とアドホックグループ(Ad Hoc Group: AHG)が設置されていて、それぞれの担当分野で国際規格立案の審議が行われています。アドホックとは「特設」の意味で、必要時に臨時で設置されますが、報告後に毎回解散する必要があるため組織図からは省いています。

TC 68はSC 9と共同で、ISO20022を管理・監視しています。

登録管理グループ(RMG)は、その下に所属する5つのグループを監督していて、TC 68およびSC 9への報告義務を負っています。

このあたりの取決めはISO Directivesに詳しく載っていますので割愛します。

ISO20022の監査

登録管理グループ(RMG: Registration Management Group)

最高のISO20022登録機関であり、登録プロセス全体を監督し、ISO TC 68及びSC 9に報告します。

2021年8月末時点で、ISO20022のRMG議長および国際事務局は日本が務めています。

RippleNet(Ripple社)は2020年5月、初の分散型台帳技術(DLT)関連企業としてISO20022のRMGに加盟しました。
これは単に、RippleがISO20022のメッセージングや業務フローに対応したというだけではなく、ISO20022標準化フォーマットの策定・改訂を行う権限を得たことを意味します。

登録認定機関(RA: The Registration Authority)

開発されたレポジトリアイテムが、承認された技術仕様に準拠しているかを確認します。

仕様に準拠していると認定した場合、アイテムをレポジトリに保管します。

ISO20022の事業分野別専門家

標準評価グループ(SEG: Standards Evaluation Groups)

SEGの事業分野別専門家は、次の分野の評価を行います。

  • 資金決済
  • 証券/デリバティブ
  • 外国為替
  • 貿易金融
  • カード・リテール決済

RMGに所属する個人がSEGメンバーを掛け持ちする場合もあります。

クロスSEG調整グループ(CSH: Cross SEG Harmonisation Group)

複数のSEGに跨る案件の調整し、問題を解決します。

リアルタイム決済グループ(RTPG: Real-Time Payments Group)

リアルタイム決済に関する支援をします。

ISO20022の技術支援

技術支援グループ(TSG: The Technical Support Group)

他のISO 20022登録機関(RMG、RA、SEG)及びISO 20022を利用する組織、またはユーザーのコミュニティに技術サポートを提供します。

ISO20022の今後の展望

金融業界

ISO20022はすでに70か国以上の決済システムで使用されています。

ISO20022の登録認定機関(RA)を担当するSWIFTは、今後数年間でISO20022がホールセールのデファクトスタンダードとなり、世界の取引量の80%と取引額の87%をサポートする予定としています。

SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SC)は、銀行間金融通信学会。非上場の株式会社で、金融メッセージングサービスのプロバイダです。世界の国際決済を担当している大企業です。

「どうしてお金じゃなくて、メッセージを送るの?」って不思議に思うかもしれないけれど、それは、海外に送金したお金が現実では海外に移動しないからだよ。紙幣は国内に保管されたままで、移動したことがお互いの台帳に記録として残されるんだ。お金はデータ。国の発行している金属や紙のお金は「価値」っていうデータを持っている証拠なんだよ〜。

SWIFTは自社のISO20022移行のスケジュールを次のように公開しています。

業会最大手企業のこの計画が、金融サービス全体に大きく影響を与えると思われます。

表1. SWIFTのISO20022移行スケジュール
2020年 仕様の変化点チェック、影響の評価。
2020年〜2021年 実装、内部テスト、実環境でのネットワークテスト準備。
2021年〜2022年 実環境でのネットワークテスト、稼働準備。
2022年11月 段階的にISO20022へ移行。
2025年11月 ISO20022への完全移行。

※MTカテゴリ1、2、9は国境を越えた支払いのみ廃止

現状は金融機関や大企業の取引、ホールセールが注目されているISO20022規格ですが、中小企業や個人の取引、リテール領域での活用のための研究も進められています。

2021年7月にリリースされたSWIFT Goは、$10,000未満の国際送金を可能にしました。このサービスは、2021年1月号のSWIFT Newsで公式にリテール向けとして報告されていた「SWIFT Low Value Payments(SLVP)」の正式リリース版です。gpiのテクノロジーを活用して作られたSWFT Goが、その他のSWIFTの送金サービス同様、今後ISO20022に対応していくことは想像に難くありません。

SWIFTのほかにも、米国のFedwire(米連邦準備銀行の運営する即時グロス決済資金移動システム)や、CHIPS(民営の大口資金移動向け清算機関)、英国のCHAPS(清算自動支払いシステム)などがISO20022対応を進めています。

欧州中央銀行(ECB)の資金決済システム「Target 2」と証券決済システム「Target 2 Securities」の統合は、最終的にISO20022準拠フォーマットに全面移行予定です。

英国のFINASTRAのように、サービス開始当初からISO20022に準拠した決済システムを持つ、いわゆるISO20022ネイティブの企業も登場しました。

金融以外の業界

ISO20022の相互運用性の高さは、先にお伝えしたとおりです。

その柔軟性とリテールへの取り組みから、金融分野以外での採用も今後考えられます

ISO20022規格に準拠するブロックチェーンの各種サービスは、利活用の先例です。

IOT、物流、芸術など、さまざまな分野でISO20022の利用が今後展開されていくとともに、ブロックチェーンとの連携がよりいっそう強まっていくものと思われます。

あとがき

いかがでしたでしょうか? 以上がISO20022の内容と役割です。

データ利活用と相互運用の重要性が、ISO20022の根底を支えています

様々なビジネス分野で、「データは新しい石油である」という言葉を頻繁に耳にします。現在黎明期と言われているフィンテックにおいて、データは石油か、もしかするとまだ石炭かもしれません。

金融開拓のゴールドラッシュを加速させ、馬の背中に人を掻き立てるのは、果たしてISO20022という蒸気機関なのでしょうか。

最後まで読んでくれて、どうもどうもありがとう!