「Pi Network」をご存じですか?
完全無料&省電力でPiという仮想通貨をマイニングできるスマホ用アプリです。
マイニングアプリには様々な種類があり、それぞれ独自のトークンを発行しています。今日は、その中でも最も古株にあたるPi Networkを、リスク重視の目線でデューデリジェンスしたレポートをお伝えしていきます。
徹底調査ですので、今日はすこし厳しい目線で見ていきます。口調とか怖かったらごめんなさい。
私益のための勧誘や、買い煽りはしないよ〜。
詐欺かどうかの結論
詐欺じゃなくても詐欺は起きる
調べてみた感想ですが、企業調査的な観点からは詐欺とは思えませんでした。
ビジネスモデル自体マルチ商法、ねずみ講、ネットワークビジネスのどれとも異なるものですが、被害が起きる可能性があるとしたら、それは「運営側による犯罪」か、「第三者による犯罪」かに分かれると思います。
例えば、KYCのために提供した個人情報を開発元企業に悪用される場合は前者にあたり、Pi Networkに悪意を持って参加する開発チームまたは第三者がユーザのウォレットから通貨を抜き取った場合は後者にあたります。
今回の調査は運営側のデューデリジェンスしか行っていません。開発元企業であるSocialChain Inc.を調査した限りでは、リスクは低いと判断しました。
KYCの合否判定が厳しく、情報を集めすぎでは? というご意見を稀に見かけますが、国を跨いで提供している金銭関連のサービスの身元確認としては妥当だと思いました。
どうしてPiで詐欺が起きるのか?
「第三者による犯罪」は、現時点で詐欺行為の報告をいくつか見かけました。
Pi Networkと関係のない第三者によるリカバリーフレーズを要求するフィッシング詐欺、取引所・ウォレット・クレジットカードカード会社を騙った偽サイトへの誘導などの典型的な詐欺行為です。
Pi Networkがサービス開始から間もないことや、アプリのユーザ数が多いことも詐欺の発生する要因だと思いますが、根本的な原因は次の3点ではないかと思います。
- ネットワークに参加している開発チームの実態が掴みづらい
- エコシステムがコミュニティ内のクローズドな環境に留まっている
- ブロックチェーンの技術・文化に関する知識に乏しい参加者が多い
順を追って説明します。
①は、Pi Network上にサービスを提供している個人・企業に関するデータにアクセスしづらい、という問題です。ハッカソンに参加したチームの情報はPi Browserですぐに閲覧できますが、新しく立ち上げられるプロジェクトの詳細を追うのは難しいですし、アプリの対応言語を読める方じゃないと基本的に理解が追いつきません。また、利用者の少ない独自のブラウザを利用することになるため、客観性を確保するのが大変です。
②は発展途上なので仕方がないのですが、それでも、どのような企業がPi Networkと関係しているのか、プラットフォーマー同士のパートナーシップは締結されているのか、規制への準拠はどうなっているのか、資金調達の状況はどうか、などの対外的な公式発表が少なく社会的なポジションが見えづらいです。
③はアプリ利用者が急増したため起きている問題です。正しい知識を持たない、あるいはクリプト文化に慣れていないユーザが、そのせいで誤判断を下してしまいやすい今の環境は改善されないといけないと思います。
これらが詐欺が横行する要因に繋がっているように思います。いかにもPi Networkと関係のありそうな無関係な個人・企業が悪意のあるサービスを展開させやすく、かつブロックチェーンに疎い方を騙して金銭を奪い取りやすい環境が醸成されてしまっています。
状況が改善されるには、客観性の保たれた開発者情報に簡単にアクセスできる、公式からのソーシャルな現状報告が行われる、Piに関係する教育を誰もが母国語で受けられる、そんな透明性が必要だと感じます。
非公式の情報に気をつけて!
ちょっとしたことでも、公式発表以外は信用してはいけません。
例えば、以前コミュニティ内で出回ったPi Coin Holder Rankingという画像。
これはBitcoin Holder Rankingを流用した画像です。2つを並べることで初めて、仮想通貨投資歴の長くない人はこの画像がパロディだったことがわかります。コミュニティ内でわいわい盛り上がって楽しむぶんには良いのですが、この数字を見て「そうかも〜」と信じかけてしまう気の緩みは、間違いなく投資判断を鈍らせます。
SNSアカウントをフォローするときは必ず公式サイトか、信頼できるリンクから。
公式サイトへ飛ぶときは必ず公式のSNSアカウントのリンクから。
ほんとうに公式のSNSアカウントかをチェックするため、そのフォロワーも必ず確認しましょう。そこに信頼できるフォロワーはいますか? そのフォロワーは本物ですか?
報道にも気をつけましょう。今あなたの見ているニュースサイトは、個人の書いたブログではありませんか? そのニュースはいつのものですか? ブックマークは必須です。
知らないメールは無視しましょう。お財布の中身にいつの間にか入っていたアセットは放置しましょう。払ったら貰えるは全部嘘です。そのGiveawayは、もしかすると都合の良いカモを見つけるための囮かもしれません。
長くなってしまいましたが、次に調査レポートをお伝えしていきます。
企業調査・分析
Nicolas博士とChengdiao博士
Pi Networkはスタンフォード大学のNicolas Kokkalis博士の開発したブロックチェーンネットワーク。
彼の開発者・起業家としての経歴は、オンラインゲーム配信及びマネタイズプラットフォームGameyolaの開発、同大学学生のスタートアップを支援する非営利団体StartX創設時のCTO就任が挙げられます。
Nicolas博士には他にも、ギリシャのクレタ大学で4年間、同じくギリシャの研究所ICS-FORTH(Institute of Computer Science – Foundation for Research & Technology – Hellas)で3年間、カナダのトロント大学で2年間研究助手を務められていた、研究員としてのキャリアも積まれています。(参照: LinkedIn)
Nicolas博士は現在、Pi Networkの開発チームを率いながら、スタンフォード大学初となる分散型アプリケーションクラスの講師を年に一度務められているそうです。
Chengdiao Fan博士はスタンフォード大学で計算人類学(Computational Anthropology)の博士号を取得された方です。Pi Networkを開発しているSocialChain Inc.の創設者兼CEOであり、Nicolas博士と同じく開発者(ソフトウェア設計)と起業家の両方のキャリアをお持ちです。
Nicolas博士とChengdiao博士が協力して事業を行うのは、Pi Networkが初めてではありませんでした。2017年に設立されたスタートアップMyriadHub Inc.のメンバーの中にも、お二人の名前を見ることができます。(参照: OpenCorporates / ACM Digital Library)
Pi Network公式サイトのお二人のプロフィールに記載された、「人々のメールやタスク処理の時間を短縮するクラウドパワー型のメールアシスタントを開発した」「クラウドソーシングによって会話を拡張するメール生産性プラットフォームを構築するスタートアップを設立した」というのが、このMyriadHubです。
SocialChain Inc.
Pi Networkを開発している企業はSocialChain Inc.、その親会社はPi Community Companyです。

“SocialChain, Inc., its parent and affiliates (“SocialChain”) provides a platform for managing crypto currency and crypto assets, for mining the cryptocurrency Pi, for enabling individual users to contribute to the security and community of Pi Network, and for allowing ordinary websites and applications to interact with blockchains to build a blockchain ecosystem.”
「SocialChain, Inc.とその親会社及び関連会社(以下、SocialChain)は、仮想通貨および暗号資産の管理、仮想通貨Piのマイニング、個人ユーザによるPi Networkのセキュリティとコミュニティへの貢献、一般のウェブサイトやアプリケーションのブロックチェーンとの対話により、ブロックチェーンエコシステムを構築するためのプラットフォームを提供します。」
SocialChainが設立されたのは2018年9月11日、本社所在地はカリフォルニア州パロアルト(登記上の本社所在地はデラウェア州)に位置します。創設者兼CEOはChengdiao Fan博士です。(参照: OpenCorporates)

アメリカは州によっては1,000ドル程度の最低資本金が必要な場合もあるそうですが、ほとんどの州では最低資本金の規定がないため、法人であることが資本金を保有している証明にはなりません。
従業員数はパートタイマーを含め約220名、世界各地に分散しています。各社員の専攻や担当も多種多様です。(参照: LinkedIn)
ただし、LinkedInで社員として扱われている人材にはモデレーターなどのコミュニティメンバーが含まれている可能性があります。また、お仕事の報酬体系については参照できる資料が見つかりませんでした。
現在は、リモートで働けるコミュニティ管理者やコンテンツマネージャーを募集されているようです。英語以外の言語に堪能であることが希望条件に記載されているあたり、SocialChainの国際的な活動が伺えるのと同時に、初期の開発段階からサービスを広く浸透させる段階に移って来ていることがわかります。
2020年から2021年にかけて、総従業員数は右肩上がりのようです。

おそらく正確な数字ではありませんが、MAツールApolloの下記グラフからも、SocialChainの総従業員数が2020年から2022年にかけて徐々に増えてきていることが読み取れます。(参照: Apollo)
このグラフからは各部署の「Other」の増加割合がとくに多いことがわかります。正社員数はほぼ横ばいで、ネットワーク上で動作するアプリ開発者らのコミュニティメンバーが増え続けている状況なのでしょうか?

「Other」を非表示にしたグラフがこちらです。
2020年末にエンジニアを、2021年末に事業開発とプロダクトマネジメントに関する人員を増やしていることからも、プロジェクトがステップアップしつつある空気が伝わってきます。
以上の情報をまとめますと、SocialChainはスタンフォード大学の教授と生徒という小さなコミュニティから誕生し、長年の実績ある同大学のスタートアップ支援を受けた、今や世界規模で成長を続ける企業であるといえます。Pi Networkは彼らの唯一にして最大のヒット商品、という感じでしょうか。
データベースを参照したOpenCorporates社は2010年12月20日にロンドンで設立された、企業情報を共有するWebサイトを運営している会社です。
スイスのバーゼルに本部を置くFSB(金融安定理事会)の「金融契約のLEI: Legal Entity Identifierに関する諮問委員会」に2012年初頭に任命されたほか、2015年7月には非営利団体Open Data InstituteのOpen Data Business Award受賞歴があるなど、信頼の置ける二次データベースを提供しています。TwitterでGLEIF(Global Legal Entity Identifier Foundation)やLevel39からフォローされているあたり、フィンテックとの関係の深さが伺えます。
解析ツール「Pi Testnet Dashboard」
公式から発信された情報以外を信用するのは非常にリスキーなPi Networkですが、こちらのデータ解析ツールが非公式でありながらも役立ちそうでしたのでご紹介します。
このダッシュボードは、Pi Networkのテストネットからデータを収集して数値化・グラフ化してくれます。オンチェーンデータを直接見ることで現状を把握しやすくなって、正しくリスク分析できると思いました。ただ、2022年6月28日にPi Networkのメインネットが開かれたので、あくまで参考資料です。
データの正誤を判断するため、リンクを辿って開発者の方の身元を確認したところ、ベトナムのハノイにあるSymperというIT企業のCTOに就かれている方のようでした。彼のBloggerの投稿はすべてブロックチェーンに関するもので、どれもが知見に富んだ記事でした。日付が2022年5月8日で統一されているのを不審に思ったのですが、翌日5月9日にFacebookに過去記事をまとめて再掲したことが投稿されていました。
開発者のNguyễn Việt DinhさんはPioneer(Piをマイニングする人の俗称)じゃないってダッシュボードに書かれていたよ。純粋に解析ツールとして見てよさそうだねぇ。
まず、ページの最上段にあるボックスの数字を見てみます。
“TOTAL SUPPLY”(総供給量)は2021年12月発行のホワイトペーパーに記載のある1,000億枚とほぼ一致しています。”Accounts”の数字は公式発表されたユーザ数3,500万人よりも少ないですね。数字が減ったりはしていませんが、なんとなくの数で捉えるのがいいのかもしれません。どの数字も、画面を更新するとその都度変動しています。ちなみに、ここに貼っていくスクリーンショットの撮影日は全部2022年7月11日です。
Pi Networkのホワイトペーパーは、Piアプリの”メイン画面左上のハンバーガーメニュー” -> “Mainnet” -> “New White Paper Chapters” から見ることができます。2021年12月版にはトーケノミクスの詳細が書かれていますので、ぜひ翻訳しながら読んでみてください:)
次に、各国のアクティブノードの数を見ていきます。
コミュニティを見ていて感じてはいましたが、やっぱり中国が最多です。
続いてベトナム。ロンドンの取引所Currency.comのニュース記事「πネットワーク支援者の芸術的センスが光る作品群(Artworks reveal artistic flair of Pi Network supporters)」に書かれていた、「ベトナムではPiコインが人気です(The Pi Coin has become popular in Vietnam)」という文章と一貫しています。SocialChainのLinkedInに掲載されている従業員の国籍も、ベトナムは高い割合を占めていました。
アルトコイン大国の韓国もやっぱり並んできます。日本は思ったよりも少なかったです。
Currency.comはSTOを取り扱っている取引所です。仮想通貨のほか、株式、インデックス、コモディティ(原油・貴金属)、FXを並列に取り扱っています。仮想通貨だけを取り扱っている取引所を普段使われている方にとっては、むっちゃ新鮮だと思いますのでぜひ見に行ってみてください!
ノードの分布図からは、アジアで最も利用されていることがわかります。
アジア・EU・米国とそれ以外でボリュームに偏りはあるものの、インド、サウジ、セーシェル、ナイジェリア、南ア、ブラジル、ウルグアイ、豪州、ニュージーランドなど、これまでクリプト発展のキーとなってきた国々にはノードの存在がみとめられます。分散化がうまく進んでいるのかもしれません。
保有額ランキングトップ10のリストは見方がよくわかりませんでした。
最も多く保有しているアカウントのPiが、コミュニティ(80%)とCoreチーム(20%)にこれから分配する合計のようにも見えます。ホワイトペーパーに書かれていたマイニング報酬(65%)・流動性プール(10%)、財団の積立金(5%)のアドレスをPi Testnet Explorerでそれぞれ見てみましたが、とくにその比率というわけではありませんでした。トランザクションは6月28日のメインネット移行後も記録されているようなのですが、んん?
規制によってユーザの減少するリスク
最後に、すこし違った視点からリスクについて考えます。
Pi Networkは将来、仮想通貨取引所へ上場する予定でプロジェクトが進行しています。
おそらく、Piの分散化が十分に進んだと判断された段階でオープンネットへ移行し、ユーティリティベースの実体経済と結びつくことになりますが、それは同時に、規制と正面からぶつかることでもあります。
クリプトが強く規制されている国、あるいは経済大国から危険視された国で、Piを別の仮想通貨やFiatに換金できない事態が起こらないとはいえません。KYC/KYBなしで利用できるDEXでもほとんどの場合、特定地域のユーザへはサービス提供を停止しています。例として、StellarX、Unizenの利用規約を貼っておきます。
“It is prohibited to access or use the Services in the following jurisdictions: Cuba, Iran, North Korea, Sudan, Syria, Crimea region of Russia. This list may be modified from time to time, in StellarX’s sole discretion.”
(以下の地域では、本サービスへのアクセスまたは利用が禁止されています。キューバ、イラン、北朝鮮、スーダン、シリア、ロシア・クリミア地域。このリストは、StellarXの独自の裁量で随時変更されることがあります。)
“ZEN RESERVES THE RIGHT TO CHOOSE MARKETS AND JURISDICTIONS TO CONDUCT BUSINESS, AND MAY RESTRICT OR REFUSE, IN ITS DISCRETION, THE PROVISION OF ZEN SERVICES IN CERTAIN COUNTRIES OR REGIONS.”
(Zenは、事業を行う市場および管轄区域を選択する権利を有し、Zenの裁量により、特定の国または地域におけるZenのサービス提供を制限または拒否することができるものとします。)
規約にあるとおり、これらの制限はプラットフォームが自身の権限で変更できます。
もし規約の変更によってPiを法定通貨に換金できない地域が発生したとき、その地域のユーザがPi Networkに参加し続けるか疑問です。規制されたユーザの減少でどのくらいの影響が出るのかはわかりませんが、不確定要素として長期的には気にしておいても良いかもしれません。
オープンネット移行直後に限った話であれば、オープンネット移行前にトーケノミクスの見直しが行われることがホワイトペーパーに記載されていましたので、もし影響があったとしても最小限に抑えられるはずです。
あとがき
2021年の春頃にPi Networkのマイニングを始めた私は、まだリワードが無かった時期からノードを立てて遊んだりしていたのですが、今回調査してみてあらためて凄いプロジェクトだなと感じました。
もし面白いと思っていただけたら、ぜひPiのマイニングを試してみてください。
アプリは完全招待制なので、よかったら招待コード「TradeFennex」をお使いください。招待コードを使ってもらえたフェネックは採掘速度が上がって喜びます。あと、ブログ読んでくれた人からいいねもらえた〜みたいな感じで喜びます。飛び跳ねます。全部が詐欺に見えてしまうわたしを童心に帰してください。
以上、リスクの観点から見たPi Networkのデューデリジェンスでした。
最後まで読んでくれてありがとう〜。
ブロックチェーンについて学ぶための知識を、下の記事にまとめています。
コトノカアカデミーでは、ブロックチェーンを全く知らない方でも一から学習していただけるよう、専門用語をなるべく使わず、わかりやすい内容を心がけています。