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Stake DAO|前編:Liquid Lockersの歴史

おはようございます。DeFi、活用してますか?

今日は、Stake DAO「Liquid Lockers」というサービスついて解説していきます。

Liquid LockersはDeFiのなかでも定番の、流動性マイニングを利用した高利回りの資産運用ツールです。

どのくらい高利回りかというと、変動はありますがガバナンストークンはこのくらいです。

ブーストしていない通常のAPRが左、ブースト後が右です。

ステーブルコインのLPトークンはこのくらいです。APRの高い順にソートしました。

Curveだと0.13%、Convexだと0.97%の3pool(DAI+USDC+USDT)が8.72%です。

これだけでも、かなりの高利率を提供していることがお分かり頂けると思います。

APR(Annual Percentage Rate: 年換算利回り)は単利計算した年間収益率です。複利運用を考慮した、APY(Annual Percentage Yield: 年収率)とは意味合いが異なりますのでお気をつけください。

Stake DAOのガバナンストークンSDTのホルダー数は、2022年9月21日現在4000人以下です。Liquid Lockersのユーザが少ないことも相まって、今なら相当有利な条件で流動性を提供できます。

他のイールドアグリゲーターがStake DAOに参入する動きも見られます。

あらためまして、今日はこのLiquid Lockersについてお話させていただきます。

単にユーザ数が少なくて利率が高いだけではない、その真価もしっかりお伝えしていきます。

Stake DAOを知らない、知っているけれど使ったことがない、そもそも流動性マイニング自体よくわからない・・という方のために、基礎知識から実際の使い方まで、前中後編に分けてまとめてお伝えします。

前編では、前提としてどうしても避けることができない、Curve Financeと「Curve Wars」の歴史について触れます。中編ではLiquid Lockersの解説を、後編ではその使い方をご説明します。

今日のお話を聞けば、DeFiに明るくない方でもその本質を垣間見ることができる、かもしれません。

慣れない方にも理解していただけるように、できるかぎり丁寧に説明させていただきます。これまでの中央集権型金融サービスでは実現できなかった、分散型金融の可能性をすこしでも感じてもらえると嬉しいです。

それじゃあ早速解説に移るよ。まずは基本情報から!

Stake DAOと「Liquid Lockers」

Stake DAOとは?

Stake DAOは、2018年に創業したStake Capitalのプロダクト。2020年にローンチされた、Convex FinanceやYearn Financeと同時期から活動している、Ethereum基盤のイールドアグリゲーターです。

その名のとおり、プロトコルとコミュニティで構成されるDAO(Decentralized Autonomous Organization: 自律分散型組織)で、中央集権的な管理主体を持ちません。ユーザは自己資産を完全に制御できます。

Stake Capitalは、Staking as a Serviceを提供するスタートアップです。CEOのJulien Bouteloup氏は、rekt、BlackPool、Stake DAO、そしてCurve Financeのコアチームメンバーでもあります。Curve FinanceはDeFiにおいて超重要な企業です。また後ほど登場したときに、詳しく説明させてもらいます。

Staking as a Serviceは、顧客から預かった資産をPoSブロックチェーンでステーキングして、その利益を分配する代わりに手数料を取るビジネスモデル。つまり、Staking as a Serviceを提供している企業っていうのは、バリデータのことだよ。

なお、イールドアグリゲーターとは、さまざまなDeFiプロトコルと戦略を活用してユーザの利益を最大化するサービス提供者のことです。イールドアグリゲーターの主なサービスは、ステーキング、イールドファーミング、流動性マイニングです。通常、資金をロックした報酬に、可変または固定のROI(投資利益率)を提供します。DeFiで資産運用をするすべての人にとって、欠かせないサービスといえます。

ステーキング・イールドファーミング・流動性マイニングの違いは以下のとおりです。大きく捉えると、流動性マイニングはイールドファーミングの一種で、イールドファーミングはステーキングの一種です。喩えるなら、流動性マイニング=東京、イールドファーミング=日本、ステーキング=東アジアみたいな関係ですね。

  • ステーキング – 資産をプロトコルにロックして、その保有量に応じたネイティブトークンを得る
  • イールドファーミング – 流動性を提供する対価として、取引手数料の一部や金利等の報酬を得る
  • 流動性マイニング – 流動性を提供する対価として、利息の他にガバナンストークンを得る

Stake DAOの基本的なコンセプトは、ユーザの支払うサービス手数料を実質無料にする、というものです。これは、ユーザのメリットだけを考えた市場戦略という訳ではなく、主な事業がステーキングではないことを理由に無料のステーキングサービスを提供し始める、大手取引所の参入への対抗策でもあったそうです。

Stake DAOは、革新的な技術と独自のガバナンスでDeFiサービスを展開してきた、業界屈指のイノベーターです。大資本との競合を回避したことで、Stake DAOのサービスはより独特で魅力的なものに進化しました。そしてその主力製品であるLiquid Lockersは、既存のDeFiシステムを一歩先へ進める新発明です。

イールドアグリゲーターの例: Akropolis、Alpaca Finance、Alpha Homora、Autofarm、Beefy Finance、GRO Protocol、Harvest、Idle、PancakeBunny、Pickle、Rari Capital、Stake DAO、Vesper、Yearn.finance

Liquid Lockersとは?

Liquid Lockersをものすごく簡単に説明すると、ガバナンストークンから得られる「投票権」と「収益」を最大化するサービスです。2022年9月18日時点で、Curve、Angle、Frax、Balancer、APWine、Blackpoolのプロトコルに対応していて、それぞれのガバナンストークンが取り扱われています。

投票権と収益の両立、そしてガバナンストークンの流動性が確保されている点は、Curve Financeに代表される初期のシステムでは実現できなかったところです。ここは難しい部分なので、詳しくは後ほどご説明します。

誤解を恐れずに一言で例えるなら、Liquid Lockersは投票権をユーザが保有するConvexです。

Convex Financeについても後ほどご説明させていただきます。少しずつお話を進めますね。

Liquid Lockersでできることと、そのトークン報酬は次のとおりです。

  1. CRV、ANGLE、FXS、BAL、APW、BPTをsdTokenに変換してステーキング
    →ロッカー&ストラテジー報酬:「3CRV」「SDT」などを受け取る
    ※「3CRV」はDAI、USDC、USDTを組み合わせたCurveのLPトークンです
  2. CRV、ANGLE、FXS、BALのLPトークンをステーキング
    →流動性報酬:流動性を提供した各プロトコルのガバナンストークンを受け取る
  3. SDTを1週間〜4年間ロック
    →veSDT報酬:「sdFRAX3CRV-f」を受け取る
    ※「FRAX3CRV」は「3CRV」にFRAXを足したCurveのLPトークンです

なるほど。Liquid Lockersを使えば投票権と収益が両方とも獲得できるのか。

でも、収益を確保できるのはわかるけれど、投票権をもらって何が嬉しいの?

そう思われる方も、いらっしゃるかもしれません。

ここで重要なのは、Liquidity Gaugeの重み、つまり各プロトコルのガバナンストークンの排出量に対して各プールがそのトークンを受け取る割合が、投票によって決定されるという点です。

極端な話、全体の100%の投票力を持っている人は、排出されるすべてのトークンを自分が預け入れているプールに充てることができます。そこで資産を預託しているのがもし1人だけだったら、報酬は総取りです。つまり、利用しているプールと、そこに投じられる投票力に応じて報酬が大きく変化するということです。

Curve Finance公式サイトから、投票の様子を引用します。

出典: Curve Finance公式サイト – Proposed Gauge Weight changes

と、このお話は一旦ここでストップします。

ここから先のお話に進む前に、Curve Financeについてご説明しておく必要があります。

Curve Financeはステーブルコインに特化したDEX(分散型取引所)です。現在のメインストリームであるステーブルコインを活用したDeFiは、Curve Financeのトケノミクスへの理解なくしては語れません。

すこし大袈裟に聞こえるかもしれませんが、CurveやConvexのTVL(Total Value Locked: 預かり資産総額)が業界全体の上位に常に位置することを考えると、あながち間違いとも言い切れません。

そして、Stake DAOのLiquid Lockersは、Curve Finance発祥のveTokenモデルの発展形です。

オンチェーンデータ解析によるTVLのグラフ・チャートはDefiLlamaで確認できるよ。

Liquid Lockersが解決する問題

Curve FinanceのveTokenモデル

Curve Financeは2020年1月にローンチされた、イーサリアム基盤のDEXです。同年8月にはDAOが立ち上げられました。流動性マイニングがDeFiで広まったのは、Curve Financeの影響によるところが大きいです。

Liquid Lockersを理解するには、まずCurve Financeのガバナンス投票を知らなくてはなりません。

Curveでは、ガバナンストークンCRVを1週間〜4年間ロックするのと引き換えに、その量と期間に応じた分量のveCRVを受け取ります。このトークンのことをveToken(vote-escrowed Token)といいます。veTokenモデルをトケノミクスに導入したのは、Curve Financeが世界初です。

この譲渡不可能なveCRVトークンを保有することで、ユーザはCurveに支払われる取引手数料の50%を獲得するのと同時に、流動性の提供によって得られる報酬を最大2.5倍まで引き上げる(ブーストさせる)ことができます。また、DAOへの提案、及び報酬の配分(ゲージ・ウェイト)に対する投票権を獲得します。

ガバナンス投票では、このveCRVが用いられるよ。veTokenモデルを採用している他のプラットフォームでも、投票に利用されるのはve○○○って名前のトークンだよ。

CRVを長期間ロックするほど、より多くのveCRVを得られます。ロックの解除が近づくにつれてveCRVトークンは直線的に減少します。つまり、時間経過とともに投票権と収益力が弱まるという仕組みです。

弱まった投票権と収益力を再度強めるためには、CRVを追加でロックする必要があります。

1 CRVを1年間ロックした場合、0.25 veCRVを、2年だと0.5 veCRVを、3年だと0.75 veCRVを、最も長い4年だと1 veCRVを受け取ることができます。時間経過で直線的に減少する仕様は、Liquid Lockersにも引き継がれています。

これは一見、合理的で持続可能な仕組みのように思われるかもしれません。ですが、個人投資家がCRVトークンをロックしてveCRVを得ることは実際にはほとんどありません。

現状のシステムにおいては、個人投資家はイールドアグリゲーターを利用して、投票権を排して運用するのが収益率を高める最適解で、もし投票したとしても機関投資家などの大口に太刀打ちできないためです。Curveの台頭によってCRVが高騰して、投票や提案の敷居が高くなったこともロックしない行動に拍車をかけています。

DeFi WarsとConvex Finence

次に、Convex Financeの解説に移ります。

Convex Finance等のイールドアグリゲーターはveCRVを大量に保有し、veCRVを保有していないユーザにブーストを提供しています。2022年9月18日時点で、ConvexはveCRV全体の約53.8%を保有しています。ユーザはこうしたイールドアグリゲーターを通じて、CRVの長期ロックという制約なしに利率をブーストできます。

CRVトークンの総供給量には303億という上限があって、いつか排出が停止します。

イールドアグリゲーターにしてみれば、この「Curve Wars」と呼ばれる投票権を巡る争いにおいて、いかに早期にveCRVを多く獲得して、高い利回りをユーザに提供できるかに勝負が掛かっています。

Convexは高い利率と引き換えに、CRVの投票権をユーザから受け取る仕組みを構築しました。

仕組みを簡単に説明します。まずユーザはConvexでCRVを「Convert」して、cvxCRVを受け取ります。ユーザはcvxCRVをステークすることで、veCRVをステークするのと同じ報酬に加えて、追加報酬を貰えます。

ただし、Convexプラットフォーム上でcvxCRVからCRVに戻すことはできません。

そして、投票権もユーザの手元にはありません。

サイトにある「Convert(変換)」という言葉から勘違いしそうになりますが、実際に行われていることは「Transfer(譲渡)」です。cvxCRVはあくまで、ConvexにCRVを「譲渡」した証明に過ぎず、CRVの所有権とその投票権はConvexにあります。このようにして、ユーザは権力を富に「変換」してきました。

そうして過半数の投票権を得るまでに成長を遂げたConvexが、Curve Warsの事実上の勝者となりました。

そして、次に起きたのはConvexのCVXトークンの奪い合いでした。Curveの投票権を大量に獲得したConvexがどこのプールに投票するかは、CVXをロックして得られるvlCVX保有者による投票で決まるからです。

さらには、CVXを保有・ロックしなくても、CVX保有者に任意のトークンを渡して、代わりに投票してもらえるVotiumのようなプロダクトも登場しました。このような、意図した投票先に票を投じてもらう為に、何らかのトークンを他者に譲渡する行為は、一般に「賄賂(Bribes)」と呼ばれています。賄賂を利用して成功した企業には、ステーブルコインFRAXを発行しているFrax Financeなどが挙げられます。

こうした覇権争いのなか、人々の手から徐々に投票権は失われていきました。

「投票権」か「収益」かの二択を迫られ、後者のみを手に取らざるをえない状況に陥りました。

DeFiは本来、あらゆる人に開かれた金融サービスだったはずです。一部資産家が権力を牛耳る現在は、思い描かれた未来ではありません。Curveに端を発するこの争乱は、DeFiという思想の根幹に関わる問題です。

この現状を打破する、解答のひとつが「Liquid Lockers」です。

defiwars.xyzで、このメタ戦争の戦局(ガバナンストークンの保有量と割合)を閲覧できるよ。

前編はここまでです。

続いて、中編でLiquid Lockersについて解説していきます。