Liquid Lockersの仕組み
取扱われているトークンの種類
ここから先、よく似た名前のトークンが登場しますので、用語を簡単にまとめます。
- SDT / Stake DAOのガバナンストークンです。
- veSDT / SDTをLiquid Lockersにロックすると貰えるトークンです。
- CRV / Curve Financeのガバナンストークンです。
- sdCRV / CRVをLiquid Lockersにロックすると貰えるトークンです。
- sdCRV-guage / sdCRVをステークすると得られる、Curveプロトコルにおけるゲージ量です。
- veToken (vote-escrowed Token) / ガバナンス投票に利用される、譲渡不可能なトークン全般を指します。(例.veSDT、veCRV、veFXS)
- sdToken (stake-dao Token) / Liquid Lockersで外部プロトコルのガバナンストークン(CRV、 FXSなど)をロックすると貰えるトークン。プラットフォーム内で利用する独自トークンです。(例.sdCRV、sdFXS)
veTokenモデルのトリレンマの解決
既存のveTokenモデルのトケノミクスには、投票権・利回り・流動性のトリレンマがありました。
トリレンマとは、3つの要素をすべて同時に成立させることのできない状態を言います。

収益を追求した場合、高い利回りと同時に、預託した資産を簡単に引き出すメリットを享受できましたが、投票力が失われました。一方、投票力を求めた場合、長期間のロックによって資産の流動性が失われ、利回りが低下しました。投票力・利回り・流動性のいずれかを犠牲にする、トレードオフがそこにはありました。
Liquid Lockersの革新性は、この問題を解決したことにあります。
Liquid LockersでCRVをロックして、引き換えに受け取るsdCRVをステークすると、Curveプロトコルにおける投票力と同時にブーストされた利回りを獲得します。そして、その投票力と利回りは、SDTをロックして受け取るveSDTによって更にブーストされます。これは、CRV以外のガバナンストークンでも同じです。
プラットフォーム上で利用するveTokenはveSDTのみですが、sdTokenの存在によって実質複数のveTokenを同時に取り扱っています。このような設計は、Stake DAOのLiquid Lockersが初めてです。
そして、長期ロックの対象となるのはSDTのみです。sdCRVはいつでも元のCRVと交換できるため、流動性が失われることはありません。このように、投票権・利回り・流動性のすべてが生かされる仕組みです。

特筆すべき点は、veSDTの保有によって、Liquid Lockersプラットフォーム上で対応しているすべてのプロトコル(Curve、Balancerなど)の投票権と利回りに対して、ブースト効果が同時に発揮されるところです。これはSDTがLiquid Lockersの中心的存在であり、投票権と収益の源であることを意味します。
ガバナンストークンをveToken化するモデルには、Frax FinanceのガバナンストークンFXSを変換したveFXSなどが挙げられますが、veFXSを保有しても、その他のプロトコルにおける投票力は上がりません。そして、どのプールに投票する場合でも常に、1veFXSにつき1票が投じられることになります。
このようにLiquid Lockersでは、投票権、利回り、流動性をすべて生かしながら収益を得られます。
Stake DAO TokenとveSDTの関係
Liquid Lockersで最も重要なトークンは「SDT」(Stake DAO Token)です。
ユーザはStake DAOのガバナンストークンSDTのロックと引き換えに、「veSDT」を受け取ります。このveSDTを保有することで、次のようなインセンティブが与えられます。
- 各ガバナンストークンから得られる、すべての投票権をブーストする
- Liquid Lockersで対応している、すべてのプロトコルの利回りをブーストする
- Liquid Lockersのガバナンス投票への投票権を獲得する
- すべてのロッカー及びストラテジーから+10%のAPYを獲得する
- Stake DAOに利用者から支払われる手数料の5%を獲得する
SDTのロック期間は1週間〜4年間、ロックするトークンの量が多く、期間が長いほどインセンティブが強まります。各ガバナンストークンのステーキング報酬、流動性提供の利回りや、賄賂から得られる収益など、プラットフォーム全体で得られる収益はすべて、このSDTのロック期間と量の影響を受けます。
投票権も利回り同様、SDTのロック期間と量に応じて変化します。投票権・利回り共に最大2.5倍ブーストできます。ロック期間が終了してSDTを引き出すまで、veSDTの保有量は徐々に減少していきます。
+10%のAPYと手数料の報酬は、ステーブルコインのLPトークン(sdFRAX3CRV-f)で支払われます。

既にお伝えしたとおり、Stake DAOはイールドアグリゲーターです。さまざまなプロトコルにおいてユーザに高い利回りを提供するために、各プロトコルのveTokenを保有しています。
そのため、veCRV、veBALなどのveTokenを保有していないユーザでも、Liquid Lockersで資産をステーキングすれば、通常CurveやBalancerに資産を預託する以上の利率で資産を運用することができます。
Stake DAOのveToken保有量と、各プロトコルにおける保有割合は次のとおりです。
※defiwars.xyzから引用 (2022年9月19日時点)
- veSDT / 482,788.29354 (4.73%)
- veCRV / 19,954,592.77115 (3.81%)
- veFXS / 410,366.23168 (0.41%)
- veBAL / 32,426.62070 (0.35%)
各トークンのコントラクトの全リストは、それぞれのAdvancedページで確認できます。
各種ガバナンストークンとsdTokenの関係
各プロトコルのガバナンストークンをロックすると、トークンに応じたsdTokenを受け取ることができます。更にそのトークンをステーキングすることで、プロトコルにおける次のメリットを享受できます。
- 投票権を獲得する
- ブーストされたAPRを獲得する
- 未使用の投票権を販売する権利を獲得する
- ロッカー&ストラテジー報酬として手数料の8%を獲得する
例えば、CRVをロックした場合、ユーザはsdCRVを受け取ります。更に、sdCRVをステークするとsdCRV-gaugeを受け取ります。そうしてユーザは、Curveプロトコルにおける投票権と利回りを獲得します。この状態でCurveのLPトークンをステークすると、ブーストされた利回りで運用することができます。
sdCRV-gaugeからユーザが得た投票権は投票に利用できるほか、未使用の投票権をStake DAOに委ねて(Delegate voting power)、その代わりに「賄賂」報酬を獲得することができます。報酬の配布はユーザが投票権を委譲した日付に応じて、自動的に隔週で配布されます。
Liquid Lockersには、Votium、Paladin、bribe.crv.finance、Hidden Hand、Pitchなどの外部の賄賂システムが統合されており、賄賂の配布される投票先に投票して、その見返りに賄賂を貰えます。
ロッカー&ストラテジー報酬は「3CRV」「SDT」及び、各プロトコルのガバナンストークンで支払われます。
以上の、SDTと各種ガバナンストークンとの関係をまとめたのが次の図です。

手数料と報酬体系
プラットフォームに支払われた手数料は、次のように分配されます。
- Stake DAO (各プロトコルの運営資金) / 84%
- Liquid Lockers (sdTokenのステーカー) / 8%
- veSDT保有者 / 5%
- DAO金庫 (DAOのコストを賄う為) / 2%
- ハーベスト実行者 / 最大1%

補足資料
最後に、Angle ProtocolによるLiquid Lockers関連スレッドを、2つご紹介させていただきます。
ここでお話しされている「Liquid Lockers」は、Stake DAOのプロダクトに限定されない、広義のveTokenモデルのことです。当事者による解説と考察から、DeFiの将来像を垣間見ることができます。
中編はここまでです。
前編で登場した問題が解決されているのが、お分かりいただけましたか。
もしかすると、Stake DAOのLiquid Lockersの多彩な報酬体系に戸惑われたかもしれません。
基本的な流れとしては、SDTをロックしてveSDTを受け取り、任意プロトコルのガバナンストークンをsdTokenと交換・ステークしたうえで、そのプロトコルのLPトークンをステーク、という感じで使います。
後編ではそのあたり、Liquid Lockersの使い方について解説します。